その「転勤」、本当に必要ですか?
クオリアの荒金です。
ダイバーシティや女性活躍が進まない大きな壁に、経営トップ層の意識や行動があることは間違いありません。
先日某企業の経営会議終了後のお時間を頂戴し、今年度の女性活躍推進研修の報告と来年度のご提案をさせて頂きました。2年目の報告ということで、ざっくばらんな意見が出てきて本音もちらほら。
- 優秀な女性がいるなら、その女性達だけを選抜して鍛えればいいのではないか
- 総合職は、「転勤あり」を了承して入社しているのに、今更「転勤がいや」というのはいかがなものか?女性活躍とはそういうわがままをきくためのものか
- 女性活躍というけれど、我が社は男性も結構辞めていくし、転勤したがらない。管理職志向も低く問題。女性だけで本当にいいのか
などなど。
つい感情のホットボタンを押さえきれず、久しぶりに激論になってしまいました。それでも最後には、女性活躍は試金石。女性が働きにくい職場は男性も含めてすべての人が働きにくい職場。働き方の変革とダイバーシティは両輪で進めなければ意味がない。先に進むしかないという点では一致して頂けたようです。担当役員の方からは、「久しぶりに経営会議で活発な議論がありました」と変な(?)お褒めの言葉を頂きました。(苦笑)
(実は、もう少し前向きな議論をしたかったのが本音。。。)
特に議論になったのが「転勤」について。
高度成長期。転勤は、終身雇用制度の下すぐに解雇できない人を活用するために活用されていました。その後、ジョブローテーションや昇進システムに組み込まれ人材育成のための要素も含まれるようになりました。人々が豊かさを求め、企業が順調に成長した時代には効果があった制度かもしれません。
海外でも転勤がないわけではありませんが、多くの場合、本人の意思があって初めて異動や転勤が行われます。社内公募のように自ら手をあげる方法もあります。また、転勤の期間やミッションを明示することも少なくありません。一方日本では、会社から転勤を命じられたら、原則として拒否できない、何年になるか明確に明示されない、一度転勤をすると当たり前のように転勤が行われる、単身赴任に対する手厚い手当がでる、といった状況にあり、「転勤できるか・できないか」はまるで出世の踏み絵のように使われてきた、という側面があります。事実、転勤に関する裁判でも「相当の不利益」(がある場合はのぞけば、会社側の転勤命令や有効という凡例が積み重ねられてきました。
近年では、転勤を選択できるよう「地域限定型社員」制度を取り入れている企業も増えていますが、ここにもいくつかの問題があります。
- 地域限定型(総合職)社員の多くは、通常社員よりも給与基準が低く設定されていることが多い
- 通常の正社員と比べて、昇進・昇格のチャンスが少ないケースが多い
- 「転勤あり」の正社員の中にも、結果として「転勤あり・なし」の社員がおり、不公平感がある
- 最初に「転勤あり」で採用した正社員が転勤しないのは不公平だから、必要ないにもかかわらず転勤の機会をあえて作り出す、といういびつさが生じることがある
終身雇用制度は崩れ、企業の大幅な成長は見込めず、共働き、介護世帯も増加する中で、「転勤」の賞味期限はきれ、「今」という時代に合わなくなっているのは明らかです。
湯水のごとく部下の時間を自由に使え、会社の都合でいつでも転勤命令を出し、人を動かすという時代は終わったのです。「転勤ありき」という思い込みにとらわれてしまうと、優秀な人材を失い、企業の活力そのものを奪うことになるかもしれません。今こそ、転勤に変わる新しい仕組みを作り出す時ではないでしょうか。
転勤の未来・あり方を考える研究や調査、記事はここ数年非常に増えています。
- リクルートワークス研究所「Works」No134 2016年2月号「特集:転勤のゆくえ」
- 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課 2017年3月「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」
- 独立行政法人 労働政策研修・研究機構「ビジネスレーバートレンド」2017年10月号「特集:転勤の実態と課題」
- 日本経済新聞夕刊デジタル版 2017年12月「『親の介護で転勤できない』男性社員の申し出増加 企業 離職防ぐ手立て模索」
- 産経ニュースデジタル版 2018年2月「AIG損保 転居伴う異動廃止へ 転勤多い金融業界に一石」
この動きはますます加速していくことでしょう。