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ノーベル賞のムハマド・ユヌス氏がGSWで女性活躍を言い続ける理由

投稿日 2019年07月19日
2008年ソウル世界女性会議にて

クオリアの荒金です。 スイスのGlobal Summit of Women2019(GSW2019)で、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏と3回目の再会を果たしました。

2006年のノーベル平和賞受賞者であるグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス氏。経済学者だったユヌス氏は、1974年のバングラデシュの大飢饉をきっかけに、貧困に苦しむ農村女性を対象にマイクロ・クレジット(無担保小口融資)を開始し、現在では600万人を越える人々が利用しています。この取り組みが評価され、2006年にグラミン銀行とともにノーベル平和賞を受賞しました。

ピアレンディングプログラムで女性起業家を支援するグラミン銀行

当時勤めていた働く女性を支援するNPOでは、女性起業家支援に力を入れていました。女性起業家が成功するために必要な要素はたくさんありますが、特に不可欠なものは、「強い意志」「営業力」そして「お金」です。女性にはお金を貸さない、男性を保証人にしろという金融機関もまだまだ多い時代でした。

そんな中、「女性起業家と金融機関のマッチング」テーマに国際シンポジウムを企画することになり、まず注目したのは、カナダのバンシティ信用組合(本店バンクーバー 組合員28万人)です。

バンシティは、少人数の女性起業家をグループ化し、それに対して少額の無担保融資などを通じて支援するピアレンディングプログラム(PLP)で成功しているカナダ最大の信用組合です。さらに、バンシティについて調べていくと、そのルーツはグラミン銀行にあることがわかりました。

「ユヌスさんを呼びたいが、コネはなし」から、はじまった奇跡

グラミン銀行とユヌスさんについて調べるほど、素晴らしい人物であることがわかり、彼を呼びたい、という気持ちが膨らんできました。

けれど、コネクションは何もない。日にちも場所もすでに決まっている。招聘する交通費も十分な謝礼もない。そもそもバングラディッシュにいるユヌスさんと、どうコンタクトをとるのか?
それでも、やらない後悔をするよりも「まずは行動」と考えた私は、早速ユヌスさんにつながるあらゆる情報を検索しました。

そして、ユヌスさんが次の土曜日に福岡で講演されると知ったのです。すぐにコーディネータ―をされていた名古屋大学の国際開発学の先生にメールと電話をさし上げ、事情を話しました。

先生のお返事は「じゃあ、福岡に会いにくれば?」というもの。そう言われたら行くしかありません。

それから後のできごとは、まさに奇跡としか言いようがない展開でした。

会場に到着した私は、受付で事情を話すとすぐに開演前の控室に通されました。そこには出演者の方達が打ち合わせを終え歓談される姿が。もちろんユヌスさんも!

恐る恐る、名古屋大学の先生にご挨拶をすると「あら、よく来ましたね。今なら時間があるし、直接話したら?ユヌスさん。彼女、話があるそうですよ」と、いきなり紹介されました。

「えっ!今ですか?」

突然の展開に全く心の準備ができていない。しかし、このチャンスを逃すわけにはいかない。腹をくくりユヌスさんの隣に座る。突然の来訪者をにこやかに出迎えてくれたユヌスさんの笑顔に、緊張しつつも、通訳を介しながら事情を説明しました。

シンポジウムの意義やユヌスさんが来てくれたら、どれだけ日本の女性達が勇気づけられるか、インパクトのあるシンポジウムにできるか、夢中で話す私をにこにこと見つめながら、秘書の方となにやら話を始めました。そして一言こういったのです。

「OK。I will attend.It’s my pleasure」

一瞬、シンプルな英語の意味が解りませんでした。

「OKって?本当に来てくれるの?日時も場所も決まっているし、何よりお金もわずかしか払えないのに」

ユヌス氏の信念。女性起業家は社会を変える!

よく話をきいてみると「イベントの前日に新聞社の招きで来日することが決まっており、その日は午後から時間がある。」とのこと。しかも「あなたのやっていることは意義のあることだからお金はいらない」というのです。

これを奇跡といわずして、なんといえばいいのでしょう。

こうして2002年1月21日、ユヌスさんをお招きしたシンポジウムは大成功となりました。
ユヌス氏は何度も強調していました。

「グラミン銀行は女性にしか融資しない。なぜなら女性はそのお金を自分のことではなく、家族や村や社会をよくするために使う。仲間を支援しながらみんなで成長できるように使ってくれる。わずかなお金を貸すことで、彼女自身だけでなく、社会全体がよくなっていくから」

常に女性の側に立ち、女性を信頼し、女性を勇気づけてくれる素晴らしい方でした。

GSWで、ユヌスさんと2度目・3度目の再会

ユヌスさんと2度目の出会いは、2008年韓国で開かれた世界女性会議でした。
すでにノーベル平和賞を受賞され大人気のユヌスさんでしたが、私のことを覚えていてくださり、再会をとても喜んでくれました。

そして、3度目は今回のGlobal Summit of Women2019(GSW2019)。ユヌス氏はグローバルウィメンズリーダーシップ賞を受賞されました。相変わらずのお元気さで、女性たちを大いにモチベートしていました。

Global Summit of Women2019(GSW2019)のグローバルウィメンズリーダーシップ賞とは、世界で女性活躍推進に貢献された方が選ばれます。過去にも国連高等難民弁務官の緒方貞子氏(2010年北京大会)や、国連事務総長パン・ギムン氏(2011年インスタンブール大会)、チリ大統領ミチェル・バチェレ氏(2009年サンディアゴ大会)など、世界的な指導者やアクティビストが受賞しています。

今回のユヌス氏の受賞理由はもちろんグラミン銀行を創設し、長年にわたり女性の起業家支援に尽力されたその功績を称えたものです。誰が受賞するのか当日まで隠されていましたので、本当にうれしいサプライズでした。

そして、何よりも心を動かされたのは、ユヌス氏のスピーチにモチベートされた世界中から集まる女性たち(参加者)のパワフルさ。Global Summit of Womenに来るたびに、世界はすでに女性の力なしでは機能しないということを実感させられます。

一方、日本では女性の政治家やアクティビストはまだまだ少なく、残念ながら政治や経済の端にいる状態です。次にユヌス氏にお会いするときは、日本の女性たちが自ら意思をもって前に進み、大きな変化の源となり社会をよりよくするために行動している姿をお見せしたいものです。