働きがい改革で組織変革!ダイバーシティ経営を進めるフジッコの覚悟
導入企業のご紹介
フジッコ株式会社
今回の対談相手は、フジッコ株式会社の代表取締役社長の福井正一様です。
フジッコ株式会社様は豆と昆布食品を中心に各種食品の製造販売を行う健康創造企業です。
クオリアとは、2021年5月に経営層・管理職対象としたD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進セミナーを皮切りに、心理的安全性&アンコンシャスバイアスセミナーやクロスロード・ダイバーシティゲームの全社展開の支援など、多方面でお付き合いさせて頂いております。
本対談では、フジッコ様が進める「ニュー・フジッコ」の創造に向けたダイバーシティ経営や働きがい改革についてお話を伺いました。
フジッコ株式会社 代表取締役社長
福井 正一(ふくい まさかず)様
神戸市出身、在住。東北大学大学院を修了後、花王㈱に入社。その後、フジッコ㈱に入社し、開発本部長、営業本部長を経て、2004年に代表取締役社長に就任。社是に「創造一路(ひとすじ)」を掲げ、昆布や豆など伝統食の知恵を活かした安心安全な商品で食を支える
リーダーが語る!対談の紹介
「六さんと語ろう!」が象徴するフジッコのダイバーシティ経営
本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。
2021年は、心理的安全性、ダイバーシティ&インクルージョン、クロスロード・ダイバーシティゲームなど、様々な切り口でご支援させていただきました。特に管理職の皆様が関心をもって、熱心にディスカッションされていた姿が記憶に残っています。
又、個人的にもフジッコの豆製品が大好きで、本日対談できることを非常に楽しみにしておりました。
ありがとうございます。
フジッコ様は、2020年から、ニュー・フジッコの創造として「生産性の高い」「経営品質の優れた」「社員が働き甲斐のある」会社づくりに取り組んでいらっしゃいます。その背景やきっかけはどのようなものでしたか。
創業60周年となる2018年に企業理念を刷新しました。創業当時から大事にしてきた企業理念ですが、トップダウンで長くやってきた弊害でしょうか、トップが言わない限り現場が動かないという組織風土がありました。自らが動いて、いろいろ情報を持って、こうしよう・ああしようという提案ができる社員が少なくなってきたのです。これではいけないと考え、企業理念を刷新したタイミングで、現場を回り、社員とじっくり話をしようと考え、「六さんと語ろう!プロジェクト」を始めました。
各地の工場や全国の営業所すべてに足を運び、若手や新入社員たちとも対話を重ねました。
そのお話を聞きたかったのです。「六さん」ってどういう意味だろうと。
六さんというのは僕の大学時代のあだ名なのです。名前が「正一」ですから、正と一を足して六。社長なんて呼ばなくていいよということで、親しみをもって、気楽に参加してもらいたかったんですよね。
いろいろな社員と対話する中で、「そろそろ会社も変わらなきゃ」という思いが強くなり、ニュー・フジッコの根底である「生産性」や「社員の働きがい」について、考え始めました。
若手や現場の方とお話しされて、知らなかったことや、改めて気づいたということはありましたか。
現場は人も足りないし、時間もない。特に工場は、残業続きで、猫の手も借りたいという状況でした。一方、営業には工場の苦労が伝わっていない。営業はどうしても数字を上げることに集中しがちです。
他社でも、開発/製造/販売の3部門の理解や連携がとれないという悩みをよく伺います。
おっしゃる通りです。
フジッコは創業者がトップの期間がものすごく長く、2代目の僕もすでに17年になります。長くなると見えなくなることもあるし、どうしてもマンネリになるところがあります。一方で、良いところは「決めたことは絶対やりきる」ということです。
創業家の方が続ける企業のメリットはたくさんあると思っています。
トップの方を中心に結束力があり、ブランドの価値を大事にする誇りが社員の皆さんの中にもあるように感じます。
なるほどね。
だからこそ、その創業家の方々がどのようなマインドを持っているかが、企業をどういう方向にもっていくかに直接的につながっていくのだと考えています。
内なるダイバーシティを経営に活かす
BtoBの会社に比べ、御社のようなBtoCの食品メーカー様は社員の方もより敏感にお客様の声を聴かれていると思います。消費者にも親しみを持ってみられていますよね。
ありがたいですね。
だからこそ、ちょっとしたトラブルや不祥事が、大きなダメージになるリスクも感じます。
はい、そうですね。
社会の変化に対応するダイバーシティの視点は絶対に必要だと思っています。
私は、よく「内なるダイバーシティ」と「外とつながるダイバーシティ」があるとお伝えしています。内なるダイバーシティというのは、組織内の多様性です。
御社で扱っている商品を購入するのは、圧倒的に女性が多いと思いますが、社内はどうでしょう・・・。
決めているのは男性ばかりとかね(笑)
過去には、同質性や均質性の高い組織でもうまくいっていた時代はあったと思います。でも、働く女性が増え多様化した時代にはそれに対応できなくなっています。特に女性の購買力は飛躍的に伸びています。今では世界の6割は女性が購買力を握っているといわれています。御社の購買層をみると、9割が女性ですね。
おっしゃる通りです!僕もそれを強く思っています。
ダイバーシティ推進室を新設した経営リーダーの問題意識
2017年にはダイバーシティ推進室を作られたと伺っていますが、新たに室として新設された思いや問題意識は?
企業風土を変える「ニュー・フジッコ」プロジェクトを始める前に、ダイバーシティ推進室を新設しました。女性活躍の重要性が取り上げられる中で、いろいろ研修やいろいろ人のお話を聞いて、もっともっと女性のよいところを自社でも活かしたいと思いました。
もちろん、ダイバーシティ=女性というわけではないのですが、本当に今、自分たちの周りを見ると、男性社会。管理職も男性しかいない環境でね。
特にフジッコは、女性がお客様なのに、どうして男性だけで決めているのか。
だから、「もっと女性が前に出た経営が必要になってくる」「女性活躍をもっともっと進めたい」というのが、最初の気持ちでしたね。そこでダイバーシティ推進室を作りました。
ダイバーシティ担当役員を置くなど組織を整え、外部からも人材を採用して「女性がもっと前にでてきていいよ」という風土を作りました。
僕自身が女性向けの研修の中で、いろいろ話をしてきましたので、以前に比べ「女性が活躍してもよいのだ」「女性が課長や部長、管理職になれるのだ」と理解してもらえるようになったと思います。
組織改革と研修をあわせて実施されてきたのですね。
はい、そうです。ただ、当社の風潮として、おとなしく、真面目にコツコツ仕事をするタイプを多く採用してしまう傾向があり、なかなか頭をださないという課題があります。
特に女性の場合は、組織の中で頭角を現すことが必ずしもプラスにはならない面があります。出すぎると打たれる、控えめにするとおとなしすぎると言われる。私自身も(組織の中で)苦労しました(笑)
もう、どっちやねん、という世界ですよね(笑)
他社様でも女性管理職研修を継続して支援していますが、3年から5年目ぐらいになってくると「管理職を目指すのは当たり前」という意識になります。いろいろなタイプの女性リーダーが出てきて「この人にはなれないけど、こういうやり方だったらできる」に変わっていきます。女性向けの研修はぜひ続けていただけたらと思います。
ぜひそういう風にしていきたいですね。
まだ、管理職候補者のプールの中で「泳いでいる女性候補者が少ない」という状況かもしれませんが…
今は、どちらかというと、男性も「管理職になりたがらない」。
自分の上司たちの働き方をみて「あんな世界は嫌だ」と思っている人たちもたくさんいて。(管理職になることを)素晴らしいバラ色の人生ではなくて、地獄に落とされるように思っている(笑)
「ああなったらもう最悪だな」と思ってしまうところがね、過去の組織にはありました。
かつては「(管理職は)犠牲の出し合い競争に勝った人がなる」と言われていた時代がありました。ただ、その頃は物質的に豊かになっていきましたし、給料も増えて、成長も実感できたので。
見返りがありましたよね。
今はそういうのがないですね。
(見返りがない中で)苦しい思いをしてまでというね。それが大分、昔と違うのだろうなと感じますね。
多様性の時代における新しいリーダーシップ像とは
従来型のリーダーシップやトップダウンによるリーダーシップは今も必要ですが、それだけでは続かない、という悩みがありますね。
そうなのです。だから、組織のカベをなくす/低くすることが重要だと感じます。不要な仕事は捨てて、残業も極力なくしてね。「社員のみなさんがもっと住みやすい/暮らしやすい」「みなさんの笑顔がある会社にしなきゃ」ということは考えてきました。
フジッコ様では働き方改革にも取り組まれていますが、最近は働きがい改革と銘打つ企業も多いです。
働き方改革より働きがい改革の方がいい言葉ですね、なるほど!
働きがいという言葉は、「社員のモチベーションや成長、承認欲求を満たす」ことを目的にしているメッセージがあります。仕組みや業務の効率化よりも、社員の働きがいがより重要になってきていると感じています。
我々が考えるニュー・フジッコも、まさに働きがい改革を掲げています。
かつては、極度なお客様思考がありました。無理な要求を受け入れて、過酷な労働になってしまったり。そういう働き方を変えて、「社員第一(ES)でいこうよ」と呼びかけました。
社員が一番、働きやすく生きがいを感じる、自分が認めてもらえると実感できる会社にして、そのために人事制度を変えて、評価制度を変えてやってきました。公正な評価の元で、できる人がどんどん給料をもらえる会社にしようというのが、ニュー・フジッコの趣旨です。
経営リーダーの役割は魅力的なビジョンを見せること
大変素晴らしい取組みですね。一方で、変化は、たとえそれがいい変化であっても、抵抗感を持つ方がいると思います。よくないことでも慣れ親しんできた風土や習慣は変えにくいという意見はでませんでしたか。
おっしゃる通りです。たとえ、本当はよくなかったとしても、慣れてくるとやっぱりよいもののように感じられてくるのですよ。
抵抗もありましたね。口では「ハイハイ」と言ってるけど、やっぱり疑問を持ってるなという人は役職者にもいます。
変えることの大変さですね。マリッジブルーやマタニティブルーなど、結婚や出産といううれしい出来事も、環境が変わることへの不安や緊張感があります。組織の改革においても、ネガティブな反応はつきものかなと思います。今、どういうことを感じていらっしゃいますか。
まさにおっしゃる通り、風土を変えるというのは至難の技です。本当にちょっとずつちょっとずつ前進だなと思っています。
抵抗勢力とは言えなくても、「本当にこの改革を成し遂げた後に、素晴らしい景色が見えるのか」と疑問に思う人たちもたくさんいるものです。改革をしているときは、富士山を登っているのと一緒で、もうしんどくてしんどくて、周りなんて見ている余裕もない。周りを見ても、ごつごつした岩の道ぐらいしか見えないわけです。
でも、僕自身は(苦しい山を)登った後には「こんな素晴らしいご来光も見えるぞ」というつもりで、リーダーとして引っ張っていこうと思っています。
ダイバーシティ経営の根幹に女性管理職比率を掲げる覚悟
改めて、御社は2025年に女性管理職比率20%という目標を掲げていらっしゃいますが、詳しくお聞かせください。
今のフジッコにとっては、チャレンジングな目標です。でも、今、社内の女性たちで管理職やリーダーに一歩手前な人たちがたくさんでてきているので、期待しているんです。
楽しみですね。そういう女性たちにどんなチャレンジをさせると、3年後・5年後にどういうポジションを担ってくれるだろう、と上司や周り、会社は考える必要があると思います。
今まで女性は男性以上に能力を出して、はじめて評価されるところがありましたので、ある意味、男性は女性以上に明らかに能力があることを見せていただければ、何の問題もないのでは、と思っています(笑)
そう!そうです、そうなのです。
女性がきちんと評価されにくい組織にいると、別にチャレンジしなくていいのかなと思う女性も多いと思います。だから、今のマネージャーの皆さんの姿そのものがいきいき見えるようなやり方も、すごく大事かなと思います。
やはり、女性の管理職をもっと作らないといけませんね。「あんな女性の上司になってみたい」という理想像がはっきり見えれば、管理職になりたいという女性も増えるんじゃないかと思います。
準備のできている人たちが、御社でも社会でも、少しずつ増えてきていると思いますので、そういう人たちが着実にキャリアアップできるようになるといいですね。2025年に女性管理職比率20%となると、あと3年(インタビュー当時は2021年12月末)ありますので、マイルストーンを設定していけば達成可能だと思います。
必ずここは実現させたいです。毎年10人ずつ登用していけば、すぐ30%になりますよね(笑)
女性活躍推進は、女性が元気になるだけでなく、若手の男性やパート、協力会社の方たちなど、会社に関わるすべての人を元気にする施策だと思っています。
人を育てることは時間がかかりますが、D&I推進には最も効果があると思っています。お力になれることがあればぜひお声掛けください。本日は本当にありがとうございました!
こちらこそ!!女性が元気になれるアイディアをこれからもいただきたいです。
参考資料
フジッコレポート 2021
https://www.fujicco.co.jp/corp/sustainability/report/2021.html(参照:2023.03.01)
フジッコ株式会社 フジッコの心普及プロジェクトチーム「まさに働きがい改革!六さんと語ろう!」https://award.atwill.work/stories2019/868/(参照:2023.03.01)
マイケル・シルバースタイン、ケイト・セイヤー『ウーマン・エコノミー: 世界の消費は女性が支配する』ダイヤモンド社、2009年