アンコンシャス・バイアスとは?事例と対処法
【目次】
1. アンコンシャス・バイアスとは?
2. アンコンシャス・バイアスは、誰もが持っている
3. いつでもどこにでもあるアンコンシャス・バイアス
4. アンコンシャス・バイアスの代表的な例
5. 原因はエゴ・習慣・感情スイッチ
6. マジョリティ(多数派)のもつ「力」に留意しよう
7. アンコンシャス・バイアスに取り組む5つの効果
8. アンコンシャス・バイアスの取り組み事例紹介
9. アンコンシャス・バイアスに対処する3ステップ
10. 特化したトレーニングが効果的!プロの活用も選択肢に
1. アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)とは?
アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)とは、自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪みや偏り」をいいます。
アンコンシャス・バイアスは、その人の過去の経験や知識、価値観、信念をベースに認知や判断を自動的に行い、何気ない発言や行動として現れます。自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれます。
アンコンシャス・バイアスは些細な言動や何気ない行為に含まれており、「よくあること」「気にする人のほどの事ではない」と見過ごされがちです。しかし、そのまま放置すると、社員のモチベーション低下やハラスメントの増加、職場のコミュニケーション不全、ひいては組織や個人のパフォーマンス低下など様々な弊害を生みます。
そのため、アンコンシャス・バイアスの知識や対処法を身につけることは、多様な社員をマネジメントする上での必須要件として位置づけられ、すでに様々な企業がトレーニングを実施しています。Googleやフェイスブック、マイクロソフトなどの大手外資系企業が先陣を切って導入し、現在では金融・証券、IT、製薬、流通、土木、製造など、あらゆる業種の日本企業が、アンコンシャス・バイアス研修を導入しています。
2. アンコンシャス・バイアスは、誰もが持っている
皆さんは、次のような職業にどんなイメージを持っていますか。
年齢は?見た感じは?性格は?どのような人を想像しますか?
それぞれの職業から、すぐに「この職業の人はきっとこうだろう」と、ステレオタイプ的なイメージを思い浮かべた人は多いのではないでしょうか。脳は瞬時に物事を無意識に紐づけて素早く理解しようとします。アンコンシャス・バイアスは高速思考ともいえます。大量の情報を処理し、すばやく行動するためには欠かせないものです。アンコンシャス・バイアスが機能することで大枠で物事を理解したり判断することが可能となります。アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているもので、良い悪いというものではありません。一方で、その情報や知識が偏っていたり思い込みによるものであっても、自動的に瞬時に処理するため修正することができません。自分を含めて、誰もがアンコンシャス・バイアスを持っていることに自覚的になり、それをきちんと取り扱うことが大切です。
3. いつでもどこにでもあるアンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアスには様々なものがあり、一説には200種類近くあると言われています。
職場で、日ごろ次のようなことはありませんか?
職場でよくあるアンコンシャス・バイアス例
- 雑用や飲み会の幹事は若手の仕事と決まっている
- 血液型で相手の性格を想像してしまう
- 育児中の女性社員に営業はムリと思ってしまう
- お酒が飲めないと付き合いが悪いと言われる
- 相手の年齢や性別で話し方を変える
- 定時で帰る社員はやる気がないと思う
- 上司は部下よりも優秀でなければならないと思う
- 腕を組んだり、足を組んだりしながら、相手の話を聞く
- パソコンの画面を見ながら相手の顔を見ずに話をする
- 新卒入社が前提であるかのような発言がある
- 実績も能力もある社員が「私にはできない」と役職を断る
- 女性社員にのみ名刺をつくらない
- 気の合う部下には、失敗しても甘い評価をする
- 話を途中で遮ったり、軽く扱うような態度をとる
- お茶出しは女性がやるものと決まっている
- 「普通は〇〇だ」「それって常識だろ」ということがよくある
- ある人の名前をいつも間違えたり覚えていない
このような言動は、アンコンシャス・バイアスから起きている可能性があります。
自分の先入観や思い込み、勝手な解釈で、無意識に発した言葉や態度が、否定的なメッセージとなり、相手を傷つけたりストレスを与えることがあります。
アンコンシャス・バイアスは「思い込み」「きめつけ」「押しつけ」となり、周囲に悪影響を与えるのです。
いつでも、どこでも、誰にでも起こりうるものだからこそ、自分自身に「思い込み」や「きめつけ」がないか、自己認識を深めることが重要です。気づきのアンテナを立てることが、関係性や組織をよりよく変えるためのスタートとなります。
4. アンコンシャス・バイアスの代表的な例
組織 | |
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正常性バイアス | 危機的状況になっても、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする ex)うちの会社は大丈夫/自分の部署には関係ない/たまたま今回起こっただけ
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集団同調性バイアス | 集団に所属することで、同調傾向・圧力が強まり周囲に合わせてしまう ex)会議は満場一致が原則/コンプライアンス違反/ハラスメント的な指導が常態化しているが、誰も意見しない。
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アインシュテルング効果 | 慣れ親しんだ考え方やものの見方に固執してしまい、他の視点に気づかないか無視してしまう ex)過去の成功体験にこだわる/どんなにいいプロジェクト案も前例がないと許可されない
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コミットメントの | エスカレーション過去の自分の意思決定を正当化し、自分の立場に固執したり、損失が明確でも引けなくなってしまう ex) 多額の投資をした不採算プロジェクトが撤退できない
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個人 | |
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ハロー効果 | ある人物に好意を抱くと、その人物に対するすべてのものに対して好意的に考える ex) 学歴が高い人は優秀/同じ趣味を持つ人/自分を慕う後輩
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ステレオタイプ | バイアスあるグループに所属するものには特定の特徴があると判断する。 ex)裁判官は男性/高齢者にITは向いていない/外国人は自己主張が強い
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確証バイアス | 仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視、または集めようとしない ex)ワーキングマザーは仕事より家庭を優先する/長時間働かないと成果が出ない
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慈悲的差別 | 少数派に対する好意的ではあるが勝手な思い込み ex)子どもがいる女性には負荷の高い業務を任せない/気が利き職場を明るくする社員は好まれるが、評価・昇進の対象ではない
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インポスター | 症候群自分への過小評価・可能性を閉ざしてしまう思い込み ex)上司は推薦するが、私にはリーダーは無理/どうせ上手くいかない
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5. 原因はエゴ・習慣・感情スイッチ
アンコンシャス・バイアスを生み出す要因は3つあります。
1つ目は、自分を守ろうとする「エゴ」
自分を正当化したり、よく見せたいと考えたり、自分にとって心地よい状態を保ちたいという、自己防衛心、自己保身の表れでもあります。
2つ目は「習慣や慣習」
慣れ親しんだ慣習や当たり前、常識だと思っていたことが、時代に合わなくなったり、多様性が増す中でずれが生じているにもかかわらず、それに気づかないままに行う言動が、違和感を生んだり、ストレスを与えることとなります。同質性が高く暗黙のルールが強くある組織ほど気をつける必要があります。
3つ目は「感情スイッチ」
感情スイッチとは、その人特有の「囚われやこだわり」や「劣等コンプレックス」、また不安感や感情を呼び起こすポイントを意味します。感情スイッチを刺激されると、人は本能的に「自己防衛反応」をとったり平静ではいられなくなります。自分を守るために、他者や現実を客観的に見ることができなくなったり、時には攻撃的な言動をとることがあります。
6. マジョリティ(多数派)のもつ「力」に留意しよう
アンコンシャス・バイアスは、誰もが持っているものですが、とりわけ組織のリーダーや管理職は注意が必要です。
眉をひそめる。腕組みをする。相手を見ずに話をきく。軽く扱うような発言をする。どれも取るに足りない小さなことです。マイクロメッセージ(小さなメッセージ)と呼ばれるこのような行動を上司が行った時、部下はどのように思うでしょうか。管理職は部下の評価や育成、仕事をアサインする役割を担っています。役割がもつ「ポジションパワー」に無自覚なまま発する、何気ないひとことや些細な行動に、立場の弱い人たちは恐れや不安をいだき、ストレスや無力感を感じることがあります。
力を持っている人ほど、自分自身のもつ「力」を自覚し、意識的に取り扱う必要があります。
アンコンシャス・バイアスに気づくためには「メタ認知」が重要となります。メタ認知とは、自分を客観的に見る能力をいいます。感情的になりそうなとき、思わず反応してしまった時、一呼吸おいて自分を俯瞰して見つめなおしてください。「これってアンコンシャス・バイアスかな?」「自分は今、アンコンシャス・バイアスにとらわれていないだろうか」
自分のもつバイアスに気づき、それが周囲にどのような影響を与えているかを自覚する。それがアンコンシャス・バイアスを取り扱いための第一歩となります。
アンコンシャス・バイアスの悪影響は、個人にとどまらず、組織全体に波及します。とくに、管理職やリーダーのアンコンシャス・バイアスは、企業のパフォーマンスや意思決定に大きな影響を与えます。対応を怠れば、職場全体のモチベーションや生産性低下など、深刻な問題に発展していきます。場合によっては、ハラスメントの告発やブランドイメージの失墜など、組織が社会的信用を失うことにもなりかねません。
アンコンシャス・バイアスを放置することは、経営リスクとなります。
7. アンコンシャス・バイアスに取り組む5つの効果
アンコンシャス・バイアスに取り組んだ組織には、ポジティブな変化が起きています。とくに「制度や仕組みは整っているし施策も充実しているが、望む成果につながらない」と悩む組織には、大きな変化を生むカギとして高い効果があります。
(1)管理職やリーダーが自覚的に取り扱い適切に対処することで、マネジメントの質が向上します。
(2)ハラスメントを引き起こす根底に、アンコンシャス・バイアスがあることはよく知られており、ハラスメントの予防・防止に効果的です。
(3)アンコンシャス・バイアス(アンコン)が合言葉となった職場は、インクルーシブな状態(安心・安全の場)となります。
(4)様々な属性や制約を持った社員が、その人らしく能力を最大限発揮し、活躍できるようになります。
(5)組織の持続的な成長や業績向上につながる土壌が形成されます。
アンコンシャス・バイアスに取り組むことは、組織のダイバーシティ&インクルージョンを推進し、企業が飛躍的に成長するためのチャンスとなるのです。
8. アンコンシャス・バイアスの取り組み事例紹介
アンコンシャス・バイアスに意識的になり、対策を行うと大きな変化が生まれます。
□女性の採用率が5%から46%に! 米オーケストラの採用試験
アメリカの5大オーケストラでは、1970年代まで女性奏者比率は5%未満でした。1970年代後半からブラインド審査を導入し、応募者と審査員の間にスクリーンを置き誰が演奏しているか見えない状態で審査を行うようにしました。性別や年齢、国籍などを排除して審査方法を行った結果、女性の採用比率が倍増しました。現在では、一流オーケストラ奏者の4割は女性となっています。
□差別を指摘されたGoogle、全世界2万人にトレーニングを実施
2013年にGoogleは「日替わりの検索エンジンのロゴ(グーグル・ドゥードゥル)が男女差別的である」との指摘を受けました。
指摘を受けたグーグルは、社員が偏見を理解し、多様な視点を持つ組織へと変わるために、2013年5月から「アンコンシャス・バイアス」と名づけた教育活動を開始しました。現在では全世界で2万人以上の社員がそのトレーニングを受けています。現在では、グーグル・ドゥードゥルの男女差・人種差は軽減されています。
□登用を意識すると女性役員比率が急増!英の企業役員は5.9%から30.6%に
イギリスでは、企業の役員に占める女性比率を3割に引き上げることを目的に、「30%クラブ」という非営利のキャンペーンがはじまりました。キャンペーン開始時、イギリス企業における女性役員登用率は5.9%(2010年)でしたが、8年後(2018年)には30.6%に急増しました。
9. アンコンシャス・バイアスに対処する3ステップ
アンコンシャス・バイアスへの取り組みを加速させるためには、専門的なトレーニングが有効です。トレーニングは「知る」「気づく」「対処する」という3つの基本ステップに添って行われます。
「知る」「気づく」というステップは、マインドセット(習慣化を促す考え方の枠組み)の形成に役立ちます。アンコンシャス・バイアスは言語化されにくく、自分自身だけで気づくことはたいへん困難です。そのため、まずアンコンシャス・バイアスとは何かを「知った」上で、自身の日頃の行動に潜むアンコンシャス・バイアスに「気づく」ことが重要になります。
アンコンシャス・バイアスを「知り」、自身の言動を顧みて「気づく」ことで、アンコンシャス・バイアスを取り扱うマインドが形成されます。アンコンシャス・バイアスに取り組むうえでは、スキルセットと同じぐらいマインドセットに関わるトレーニングが大切です。マインドが形成されて、はじめてアンコンシャス・バイアスに「対処できる」ようになります。
10.行動変容を生み出すトレーニングプログラムを設計する
アンコンシャス・バイアストレーニングとは、その人や組織にとって「常識・当たり前」を見直す取り組みです。アンコンシャス・バイアスは、いつでもどこでも誰にでも存在しています。「自分の中にもある。職場にもある」ということに、意識的・自覚的にならない限り、対処することはできません。
アンコンシャス・バイアストレーニングを社内人材で展開する場合、管理職や役員など上位職が持つバイアスをあぶりだすことは難しいかもしれません。また、不平・不満・グチなどのネガティブな内容が含まれることもあり、感情的な緊張関係を生むことがあるかもしれません。
アンコンシャス・バイアストレーニングを導入する際には、ターゲットと目的、ゴールを明確にし、きめ細かなプログラムを設計することが重要です。豊富な知見を有する専門家への相談など外部リソースを活用しつつ、効果的なアンコンシャス・バイアストレーニングを実施しましょう。